炊き出しの記
今年も山笠が始まった。
川端に店を移して以来毎年の行事だが、今年は久しぶりの買い物当番である。
7月9日のお汐井取りに始まって、山笠期間中の1週間は毎日気が抜けない。
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初日は鉢盛、おにぎり、吸い物、それにつまみとして枝豆・チヂミ・蒲鉾が加わる。
山笠詰所となっている臨時の小屋に、たくさんのお母さんたちがお手伝いとしてやって
きてくれた。
商店街の「ごりょんさん」たちも高齢化が進み、お手伝いの方たちなしには
やっていけない。 有り難いことである。
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談笑しながら待つうち、空は暮れて紺色となってゆく。
薄暮となった街なかに、やがて潮騒のように「おっしょい おっしょい」の声が
遠く近く聞こえ始める。 この時間は、味わいがあって好きだ。
提灯をともした一団が走ってくる。
先頭は高張提灯、そのあとに「町総代」だの「取締」だのと書き抜いた提灯が続く。
近代的な商店街の中を、この時だけは昔ながらの山笠装束、足元は脚絆に地下足袋。
町内ごとに違う法被を着て、一目でどこの流れか判るという装置は、昔そのままである。
中には子供たちもいて、地元では地域ぐるみでこの子たちを育てている。
年上のおじさんやお兄さんたちから、よっ○○、と呼びかけられ、常日頃から目を
かけられて成長するという環境は、今の日本では本当に少なくなってしまった。
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櫛田神社にお参りして当番町へ帰ったあと、ようやく詰所へ戻って来る。
時刻は9時近い。
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ここから炊き出し部隊は忙しくなる。
お吸い物をついで、お酒に燗をつけて。
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ビールが行き渡ったところで総代の挨拶。
酒宴が始まると、あとは若手と呼ばれる参加者たちが取り仕切る。
「ビール」「吸い物お代わり」「熱燗」、と、呼ばれる毎にテーブルの狭いすき間を山笠
法被で走り回る。
疲れ果てたあとの仕事であるから、さぞ辛かろうと思うが、先輩たちは
「みんなこうやってきたと」と当然の顔。
上下関係の厳しさも、山笠の良さの一つであろう。
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なんとか無事終わって、さて明日はどうなるか。