« 年末の山 | メイン | 阿弥陀尊像 »

鳥の羽根

いつの頃からか、鳥の羽根を拾い集めるようになった。

と言ってもそんなに落ちている訳ではなく、多くは山へ入った時にふと見つける。

IMG_0994_R.JPG

                                                             ・


最初に拾ったのはアカゲラ。 上高地から涸沢へ登る登山道で6月に見つけた。

IMG_1002_R.JPG

左のがそうである。

丸い白斑が面白くてウエストポーチに入れたが、何の鳥なのか分からない。

宿の夕食時、隣り合った人に見せたら、たぶんアカゲラの風切羽でしょう、と言われ

生えている場所まで判るのか、と驚いた。

その後図鑑を買って調べたら、その通りである。

この方は自営業のかたわら、写真を撮ったり絵を描いたりの旅をしているそうで、

このあとは、伊那谷のあたりで民家の絵を描くと言っておられた。

                                                             ・
                                                             ・

その後数年して、九重の山林中で拾ったのが右の羽根。

青い部分が鮮烈で、これも捨てる気にはならず持ち帰った。調べるまでもなく、カケスの

ものだ。

あとから思い出すに、ギャーギャーッと叫ぶような声がしきりにしていた。

ひょっとしたら巣の下を知らずに通ったのかもしれない。悪いことをしたね。

翌年行くと、その辺りは伐り払われ、ぽかんと明るい空が見えていた。

カケスはどこに行ったろう。

                                                             ・
                                                             ・

IMG_1005_R.JPG

リュウキュウコノハズク。

石垣空港でレンタカーを借りて、暗くなった山道を走っていると車の前の道路に立って

いる。

写真を撮ろうとあわててカメラをセット、ライトが当たるように車の向きを調整するが、

どうも変。

よろよろしてまっすぐ歩けない。

降りて近づくが逃げない。 車に当たって脳震とうを起こしたか、もっと重篤な症状か。

手のひらに包んで暖めてやると、少し良くなったような気がしたので、そばの繁みに

隠した。

                                                          ・

翌朝、朝食には帰りますからと宿に声をかけて、もう一度行ってみたが姿はない。

代わりに見つけたのがこの羽根である。

やれ、何に襲われたか。 見上げるとそばの裸木にカンムリワシが止まっているでは

ないか。

あれー。

板挟みの心境ではあるが、ワシタカファンであるからして、コノハズクも無駄死に

しなくてよかったのだと考えた。

自然界では、無駄なことは何ひとつない。 他の生き物に喰われなくとも、死骸は

土に返って肥料となり、植物を育てる。

私も、できるものであればそうなりたいと思う。


6479_R.jpg

カンムリワシ。


                                                          ・
                                                          ・

はっきりと羽根集めをしようと思い始めたのは、ハイタカの羽根を大量に拾ってからだ。

IMG_1010_R.JPG

これでも一部分。

その頃、オオタカを間近に見たいと飢えるかのように念じていて(今も大差はないが)、

見られそうな所で一日を過ごした。

珍しくケアシノスリが、離れた竹藪から姿を現した。

じっと見ていると、何かを食べた後のような仕草である。やがて飛び立った。

                                                            ・

カメラを抱えて小走りに行く。 竹藪に降りると、一面に大量の羽根が広がっている。

わーオオタカが喰われてる、私の印象はそれだった。

拾える部分はすべて、丹念に集めた。 綿毛のような羽は無理だが、それ以外は全部。

                                                           ・

帰宅後、研究者に写真を送って聞くと、オオタカではなくハイタカのものだと分かった。

気の毒なハイタカは、誰に喰われたのだろう。

あの時ケアシノスリは、まだ残っていた僅かな肉を食べていたと思われる。

しかし、何かが仕留めて食べた残り肉を見つけたのかもしれない。

オオタカなのか、ケアシノスリなのか、捕食者は不明である。

                                                          ・
この時に、タカの羽根をできれば集めてみよう、そう思い立った。

タカは美しい。羽根が美しいのは当然である。

美しいものは、理屈なしに人を引き付ける。

3257G_R.jpg

ケアシノスリ。 めったに九州には来ない。