20万キロ
車の走行距離が20万キロになった。
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20万キロまでは乗るから、と宣言していたが、車やさんからは「まだ乗れます」と
お墨付き。
オイル漏れがほとんどないのだそうだ。
スバルのフォレスタであるが、4輪駆動で車高が高く、私向き。
どこまでも行くし、どんな道だって走る。
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ずい分前だが、鹿児島へカラフトワシを見に行った帰り、左後輪がガタガタ言った。
ガソリンスタンドで見てもらったが分からず、福岡まで高速道路を帰ってきた。
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車やさんに出すと、「危なかったですね、ベアリングのオイルが抜けていて、
ヘタすると火が出ることもあるんです。」 オイオイ! 高速走ったんだよ!
これがただ一つの故障だった。危ない故障ではあるが。
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タカを探して林道を走ることがよくある。
突然行き止まりになり、仕方なくバックで1キロほど戻ったが、そのあとまた
ガタガタが始まった。
「今度は右後輪よう、困るねぇ」と再度車やさんへ。
すぐ電話があった。
「酒井さん、どこ走ったんですか。竹を拾ってましたよ。 故障じゃないですよ」
カーブを曲がる時に、細い篠竹が右後輪にはまり込んだらしい。
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女一人でペンションをやっている人に、「ねえ、お客さんが誰もいない日なんか
淋しくない? 隣は牧場だし前は畑で、人家なんて見えないじゃないの、ここは。」
と尋ねたことがあった。
「いーえ、私はそういうの平気なんです。一人で大丈夫」
このひとも、スバルフォレスタに乗っていた。 旧式の赤で、私のより格好よかった。
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タカの巣を探しに山の中に入って、一つ違う尾根を下ってしまい、道に迷ったことが
ある。
右の尾根を下ったのだから、出た車道を左に行けばよいものを、右に行ってしまった。
迷ったという焦りがあったのだろう。
人っ子一人いない道を心細く歩いていると、ようやく畑仕事をしているおばあさんに
会った。
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あなたはどこの人ね? ここは実家の畑だけど、私は自転車で1時間15分かけて
来よるとよ。 父も兄も亡くなってね、あたししかする者がおらんから。
若い者はみーんな博多へ出て会社勤めしてね、この辺はどっこもそうよ。
もう私も74歳じゃから、いつまでできるもんやら分からん。
あたしがせんようになったら、ここも売るしかないよ。
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そうか。 ここ数年の間にも、耕作放棄された畑や草刈を止めた林道をいくらも
見てきて、想像はついていたけど。 直接聞くとちょっと悲しい。
「車を置いた所に帰らなきゃ困るんです」
そんなら、途中までついていってやるよ。
そう言って、元気とはいえない足取りなのに先導してくれた。
「有難うございます。 今は何も持ってないのでお礼に上げるものもなくてすみません」
そう言って別れたが、車へ帰ったところで特に何も持ってはいなかったのだ。
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たったこれだけの出会いなのに、帰りのドライブは何か楽しかった。
小さな休日の楽しみ、それはすべて車があるおかげ。
どこへでもいつでも行ける、この楽しみが私のものになって何年たつか。
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さて、あと何キロ走ってくれるだろう。