鳥の羽根
いつの頃からか、鳥の羽根を拾い集めるようになった。
と言ってもそんなに落ちている訳ではなく、多くは山へ入った時にふと見つける。
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最初に拾ったのはアカゲラ。 上高地から涸沢へ登る登山道で6月に見つけた。
左のがそうである。
丸い白斑が面白くてウエストポーチに入れたが、何の鳥なのか分からない。
宿の夕食時、隣り合った人に見せたら、たぶんアカゲラの風切羽でしょう、と言われ
生えている場所まで判るのか、と驚いた。
その後図鑑を買って調べたら、その通りである。
この方は自営業のかたわら、写真を撮ったり絵を描いたりの旅をしているそうで、
このあとは、伊那谷のあたりで民家の絵を描くと言っておられた。
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その後数年して、九重の山林中で拾ったのが右の羽根。
青い部分が鮮烈で、これも捨てる気にはならず持ち帰った。調べるまでもなく、カケスの
ものだ。
あとから思い出すに、ギャーギャーッと叫ぶような声がしきりにしていた。
ひょっとしたら巣の下を知らずに通ったのかもしれない。悪いことをしたね。
翌年行くと、その辺りは伐り払われ、ぽかんと明るい空が見えていた。
カケスはどこに行ったろう。
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リュウキュウコノハズク。
石垣空港でレンタカーを借りて、暗くなった山道を走っていると車の前の道路に立って
いる。
写真を撮ろうとあわててカメラをセット、ライトが当たるように車の向きを調整するが、
どうも変。
よろよろしてまっすぐ歩けない。
降りて近づくが逃げない。 車に当たって脳震とうを起こしたか、もっと重篤な症状か。
手のひらに包んで暖めてやると、少し良くなったような気がしたので、そばの繁みに
隠した。
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翌朝、朝食には帰りますからと宿に声をかけて、もう一度行ってみたが姿はない。
代わりに見つけたのがこの羽根である。
やれ、何に襲われたか。 見上げるとそばの裸木にカンムリワシが止まっているでは
ないか。
あれー。
板挟みの心境ではあるが、ワシタカファンであるからして、コノハズクも無駄死に
しなくてよかったのだと考えた。
自然界では、無駄なことは何ひとつない。 他の生き物に喰われなくとも、死骸は
土に返って肥料となり、植物を育てる。
私も、できるものであればそうなりたいと思う。
カンムリワシ。
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はっきりと羽根集めをしようと思い始めたのは、ハイタカの羽根を大量に拾ってからだ。
これでも一部分。
その頃、オオタカを間近に見たいと飢えるかのように念じていて(今も大差はないが)、
見られそうな所で一日を過ごした。
珍しくケアシノスリが、離れた竹藪から姿を現した。
じっと見ていると、何かを食べた後のような仕草である。やがて飛び立った。
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カメラを抱えて小走りに行く。 竹藪に降りると、一面に大量の羽根が広がっている。
わーオオタカが喰われてる、私の印象はそれだった。
拾える部分はすべて、丹念に集めた。 綿毛のような羽は無理だが、それ以外は全部。
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帰宅後、研究者に写真を送って聞くと、オオタカではなくハイタカのものだと分かった。
気の毒なハイタカは、誰に喰われたのだろう。
あの時ケアシノスリは、まだ残っていた僅かな肉を食べていたと思われる。
しかし、何かが仕留めて食べた残り肉を見つけたのかもしれない。
オオタカなのか、ケアシノスリなのか、捕食者は不明である。
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この時に、タカの羽根をできれば集めてみよう、そう思い立った。
タカは美しい。羽根が美しいのは当然である。
美しいものは、理屈なしに人を引き付ける。
ケアシノスリ。 めったに九州には来ない。