空の上で
2月は飛行機に乗ることが多かった。
空の上で何をしているかというと、誰しもそうだろうが、
音楽を聴く ビデオを見る 読書 ボンヤリしている、このどれかである。
・
ある日は、久しぶりにバイオリンを聴いた。
初めて聴く千住真理子の、おしゃべりと共に時間が流れていく。
「初めて聴いたのは中学生の時で、この曲が弾けるバイオリニストになろうと思いました。」
「ヴィターリのシャコンヌ」が紹介される。
弾き出しでああこれは、と思ったが、その通り感激した。
・
・
涙は出ないのに泣ける。
空の上で、見知らぬ人に両脇をはさまれたまま泣いた。
・
・
またある日は文庫本を読んだ。
まとめ買いした本がテーブルの上に積んである、その中から、一番薄いのを
出がけにバッグに放り込んだ。
「岡潔 春宵十話」
いきなり最初のページからすごい。
(数学なんかやって人類にどういう利益があるのだと問われて)
−−スミレはただスミレのように咲けばよいのであって、そのことが春の野に
どのような影響があろうとなかろうと、スミレのあずかり知らないことだーー
うわ、スゴ。
この方は信仰をお持ちなのだろうと読んでいくと、やはりそのようだ。
また、
理想はおそろしくひきつける力を持っており、見たことがないのに知っているような
気持ちになる。それは、見たことがない母を探し求めている子が、他の人を見ても
これは違うとすぐに気がつくのに似ている。
迫力ある言葉である。
・
・
こうやって旅で刺激を受けても、帰れば元の木阿弥、多忙に紛れて
いつか忘れかけてしまうのが悲しい。
何かを為そうとすれば、人は孤独でなければいけないと、岡氏も言っておられるが、
日ごろは帰宅後も、刺激を求めるよりは憩いが先となる。
仕方のないことでもあって、せめて週末なりと静かに過ごしたいものではあるが。
・
・
遠山に雪の降りたる日の朝は 大気を弦の音わたりてゆくか
・
冷気打ち いま咲き初めししら梅の 花明りして山里清し
・
黒い田に 青き麦の芽並び出て 水のきらめく如月うれし
・
人も無き 凍れる波止にいのち燃やし 群れ飛ぶ鷗 明日を思わず