春は第一歩を踏み出す
3月6日、庭でウグイスの初鳴きを聞く。
冬中、チャッチャッと茂みの中で鳴いていたのが、ようやく第一声を放つ瞬間。
3月8日、戸締りをしようと窓を開けた折、こもる香りに気づく。
馥郁、という表現はこれか。香かと思わせるゆかしい香りが庭を包んでいる。
梅は何日か咲き続けたが、これは一日限りであった。
週末のある日は、低い尾根の上で鷹を待つ。
飛ぶか飛ばぬか見当もつかず待つうち、日差しが違ってきているのに気づく。
ススキの枯れ穂。
冬と変わらぬ姿だが、冬とは違う。 照らす光は春のものではないか!
強い風にあおられる竹。 この緑は昨年生いたものだが、冬の間こんなに輝いていたか?
レンズを通すとよく分る。 春の日差しが満ちているのだ。
右にゆれ、左にしなうにつれ、緑の輝きが変わる。
それを見つめ、撮り続けた。 飽きることがなかった。
ヤシャブシの木にも黄色い芽が吹き、雲間から差し出でた光に一瞬輝く。
小雨のぱらつく寒い尾根で、ヤシャブシが輝くこの一瞬をどれだけ私は待っていたか。
一瞬ののち再び翳る日差し。
鷹飛ばず。 この天候では無理もない。
しかし春はそこまで。
風強い尾根で一人過ごす、この豊かな時間よ。
春そこまで到達す。
我それを確かめり。 しかと確かめたりしなり。